2018年7月24日火曜日

泥かぶら

「泥かぶら」

昔、ある村に顔の醜い少女がいました。

孤児で、家もなく、
森の落葉の中にもぐり、橋の下に寝る。

色は真黒、髪はボウボウ。
着物はボロボロ、身体は泥だらけ。

少女は、その醜さゆえに、
「泥かぶら」と呼ばれていました。

子どもからは石を投げられ、
唾を吐きかけられ、
泥かぶらの心はますます荒み、

その顔はますます醜くなっていくばかりです。

「あたしはこれからどうしたらいいの…」

夕日を見ながら、悲しくなり考え込むのです。

ある日のことです。

泥かぶらがいつものように荒れ狂い、
「美しくなりたい!」と叫んでいるところへ

旅の老法師が通りかかりました。

「これこれ、泥かぶらよ。
そんなにきれいになりたいと泣くのなら、
その方法を教えてしんぜよう。」

「3つある。

まず1つは、自分の醜さを恥じないこと。

2つ目は、いつもにっこりと笑っていなさい。

そして3つ目は、人の身になって思うことじゃ」

泥かぶらは、激しく心を動かされます。

というのも、それらは、今までの自分と
まったく正反対の生き方だったからです。

「この3つを守れば村一番の美人になれる」

法師の言葉を信じた泥かぶらは、
その通りの生き方をしはじめます。

しかし、急に態度の変わった泥かぶら見て、
村人は不審に思うばかりか、
嘲笑し、中傷するのです。

ある時、事件が起こります。

事の発端は、村一番の美人で
一番お金持ちの庄屋の子、こずえでした。

彼女がどうしたことか、
「助けて」と叫んで、
泥かぶらのところに走って来たのです。

こずえは、日頃から泥かぶらを
嫌っていじめていた者の一人です。

何かわけがあるに違いありません。

果たして、こずえの後ろから、
父親の庄屋が鞭を持ってやって来ました。

庄屋は、命よりも大切にしていた
茶器を割られたことで、
怒り心頭に達していました。

「泥かぶらが、割ったんだ」

父親の怒りを逃れるために、こずえは、
日頃から評判の悪い泥かぶらに
罪を着せていたのです。

怒り狂ったような庄屋は、
娘の言うことを信じて疑いません。

泥かぶらを見つけると、
容赦なく鞭で打って、
折檻(せっかん)をし始めました。

泥かぶらは、すべてを悟り、
黙ってその鞭を受けました。

「人の身になって思うこと」

という法師のあの言葉を思い出し、
「助けて」と頼んだこずえの願いを
聞き入れたのです。

何度も何度も鞭で叩かれ、
ひどい言葉を浴びせられながらも、
泥かぶらはこずえを助けるために、
最後まで耐え忍びました。

「もうやめよう。

お坊様がおっしゃった3つの言葉、
あんなことで私は良くなるとは思えない」

泥かぶらが全身ボロボロになって、
また丘の上の夕陽を見ながら泣いていた時でした。

後ろからそっとやってきた人がいます。

こずえでした。

「助けてくれてありがとう。
本当に悪い事をした。
これは私の宝物だから、
あんたに、もらってほしい」

そして、自分が一番大事にしていた
櫛(くし)を差し出したのです。

この時、泥かぶらは
自分が報いられたことを知りました。

生まれて初めての経験に、
泥かぶらは声をふるわせながら、
こずえに言います。

「その櫛はいらないから、
その心だけでいいから・・・
どうかこれからあたしと、仲良くして・・・」

こずえは泣きながらうなずきました。

そして、泥かぶらの頭の泥を払い、
櫛で髪の毛をすいてあげて
かたわらの花を挿してあげるのでした。

それからです。

泥かぶらの人生が好転していったのは・・・。

村人たちの泥かぶらへの評価が
どんどん良くなっていきます。

そうなればなおさら、
泥かぶらはお坊さんの3つの言葉を
さらに実践していきます。

喘息持ちの老人には
山奥に入って薬草を取って持ってきたり、
子供が泣いていたら慰めてやったり、
子守りをしてやったり、
人の嫌がることでもニコニコしながら
次から次にしていきます。

すると、心も穏やかになっていき、
あれほど醜かった表情が
消えてなくなっていきました。

村人のために労をいとわずに働く泥かぶらは、
次第に、村人にとって
かけがえのない存在になっていったのです。

ところが、そんなある日、
村に恐ろしい「人買い」がやってきました。

人買いは借金のかたに、
一人の娘を連れていこうとします。
 
泥かぶらと同じ年の親しい娘です。

「いやだ、いやだ」と
泣き叫ぶ娘の姿を見ていた泥かぶらは、
人買いの前に出て、
自分を身代わりにしてくれと頼みます。

こうして、売られていく泥かぶらと
人買いとの都への旅がはじまります。

そんな時でも泥かぶらは、
法師の3つの言葉を忘れませんでした。

・自分の顔を恥じない。

・どんな時にもにっこり笑う。

・常に相手の身になって考える。

ですから、旅の途中、
毎日毎日、何を見ても素晴らしい、
何を食べても美味しいと喜びます。
 
どんな人に会っても、
その人を楽しませようとします。

「売られて行くというのに、
おまえはどうしてそんなに
明るくしていられるのだ」

不思議がる人買いに、泥かぶらは、
自分の心にある美しく、楽しい思い出だけを、
心から楽しそうに話して聞かせるのでした。

そんな泥かぶらの姿に人買いは、
激しく心を揺さぶられます。

 
親に捨てられ、
家もない娘が不幸でなかったはずはない。

それなのに、誰に対しても恨みごとを言わず、
むしろ村人たちに感謝さえしている。

そして、この自分に対しても、
楽しい話ばかりして喜ばせようとしてくれている。

それに引きかえ、それに引きかえ・・・

ああ、自分のこれまでの生き様はなんだったのか・・・。

月の美しい夜でした。

人買いは、泥かぶらに
置き手紙を残してそっと姿を消します。
 
手紙にはこんな言葉が書かれていました。

「私はなんてひどい仕事をしていたのだろう。
お前のおかげで、
私の体の中にあった仏の心が目覚めた。
ありがとう。仏のように美しい子よ」

泥かぶらはそのときはじめて、
法師が自分に示してくれた、
教えの意味を悟り、涙するのです。


相田公弘さんFacebookページよりシェアさせて頂きました。


押忍!

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