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2019年3月19日火曜日

【江戸の働き方と文化イノベーション】

岐阜聖徳学園大学教授、加納正二氏の心に響く言葉より…

江戸時代の武士は謹厳な勤務を強いられたようなイメージがあるが形式においてはともかく実態においては必ずしもそうは言えない。

三田村鳶魚によれば、江戸の武士は「三番勤め」といって三日に一日勤めるようになっていた。

仕事量に比して武士の数が多すぎたため、ワーク・シェアリングとしてこの制度が実施された。

建前としては、非番の日は武芸の鍛錬と学問を修めるための時間とされていた。

しかし武士は休日に副業を行うようになった。

江戸時代、下級武士が暇を持て余し、副業として文筆業を始めた現象や遊び・娯楽の文化活動が経済活動に結びついていった現象は「文化イノベーション」とも呼べる現象であろう。

筆者が考える江戸時代の文化イノベーションの時代は二度ある。

元禄時代と田沼意次時代である。

元禄時代は貨幣経済の発達に支えられ幕府の中央市場と諸藩の地方市場との間に、商品の流通が盛んに行われるようになった。

これに伴い全国的な交通網も整備され、文物の交流も盛んに行われるようになった。

経済活動は社会を豊かにし、暮らしに文化をもたらすが、逆に文化が消費を活発にし、経済効果をもたらすとも考えられる。

元禄時代には多くの書籍が版行される「出版イノベーション」が起き、職業文化人として松尾芭蕉、井原西鶴、近松門左衛門などが登場した。

これら三大文人は異常な性格をもつといわれる五代将軍徳川綱吉統治の世であったからこそ輩出できたともいえよう。

一方、田沼時代になると田沼意次は革新的な経済政策を行い、自由な空気を作った。

天明時代の人々は、四民(士農工商)の区別なく狂歌会に参加し、狂歌と浮世絵のコラボでヒット商品を出すなど「文化イノベーション」が起きた。

中心となった人物は下級武士の大田直次郎である。

大田直次郎は大田南畝(おおたなんぽ)、四方赤良(よものあから)あるいは蜀山人(しょくさんじん)の号で知られる武家文人だ。

大田直次郎は七十歳を過ぎるまで役所に勤めながら、副業の文筆活動を行った。

庶民からも支持される天明狂歌の大ブームを起こした武家文人大田南畝や多面的な創造力を発揮して活躍し江戸のレオナルド・ダ・ビンチといえる天才平賀源内を輩出したのは田沼時代だからこそであろう。

残念ながら五代将軍徳川綱吉も田沼意次も悪名高く、マイナスの部分が誇張されて後世には伝わっているようである。

『江戸の働き方と文化イノベーション』三恵社

徳川綱吉は暗君、馬鹿殿のイメージが強く、とりわけ「生類憐みの令」は、すこぶる評判が悪い。

確かに、動物を殺すと死刑になるという極端である意味メチャクチャな法律であったが、この法律以降、「人を殺めるのは大罪である」との意識が日本人の中に定着したと言える。(井沢元彦・「誤解」の日本史)より

綱吉以前は、江戸市中でも喧嘩が絶えず、戦国時代の男伊達のような荒々しい気風が残っていたが、それを綱吉は嫌ったのだという。

だから、文化が発達した。

また、同時に農業改革を行い、以前は五公五民の税の分配だったが、綱吉の時代には三公七民になり、農家はうるおったという。

また、貨幣の中に占める金銀の含有率を少なくし、貨幣の供給量を多くした「貨幣改鋳」も後世、非常に評判が悪いが、実はこのことが経済発展の元になったのだという。

実際、新井白石の発案で金銀の含有量を増やしたら途端にデフレになり、庶民は困窮し、困り果てた。

また、賄賂政治のイメージが定着している老中、田沼意次だが、農家からだけでなく、商人に特権を与えることによりそこからも税金をとったり、各地の干拓を行ったり、新たな鉱山を探し生産量を増やしたという。

そのため幕府の税収が増えたため、その余波が商人や庶民にいきわたり町民文化も発展したという。

つまり、貨幣経済を重視したといわれる。

その悪い面が出たのが賄賂の横行だ。

歴史をみれば、どの時代であっても、経済が豊かにならなければ、文化は発展しない。

そして、豊かになれば同時に、働き方も変わる。

AIやロボットやデジタル革命により、今後ますます、余暇は増えて来る。

江戸時代と同じように、三日に一日という出勤も当たり前の時代がくる。

「江戸の働き方と文化イノベーション」

未来を見通すため、今一度、江戸の時代を研究する必要がある。

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押忍

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