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※本稿は、柳沢幸雄『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
「安心して帰れる場所」がある子は頑張れる
「安心して帰れる場所があるか」、これは子どもの自己肯定感を育てる上で、非常に大切なことです。単に「安心して過ごせる家」という物理的な話だけでなく、精神的な意味も含んでいます。
落ち着ける家庭という居場所は、子どものチャレンジ精神を育んでくれます。何があっても受け止めてくれる、帰る場所があるとわかっていれば、子どもは思い切って外に冒険に出ることができるのです。
勉強にしろ、運動にしろ、芸術にしろ、外の世界は厳しく、いつも勝てるとは限りません。むしろ負けることのほうが多いでしょう。そんなとき、家に帰ってホッとできるかどうか、次の冒険への英気を養うことができるかどうかは、非常に大切なことです。
頑張り続けられる子というのは、そのような帰る場所を持っているもの。親の役割は冒険に一緒に付き添うことではなく、負けて帰って来たわが子を温かく迎え入れることなのです。
中学受験で第一志望校に不合格になると、子ども以上にがっかりしたり、泣いたりする親御さんがいますが、それは役回りを間違えているとしか言えません。なぜなら、一番つらいのは実際にチャレンジした本人です。親はプレーヤーではなくマネージャーなのですから、必ず一歩引いてお子さんを支えてください。
そのために親は、子どもが負けて帰ってきたときに、どうやって受け入れるかを常に考えておきましょう。それはお子さんにかける言葉かもしれませんし、好きな夕飯を用意することかもしれません。一緒にテレビを見たり、映画に行ったりすることかもしれません。
子どもが安心して帰れる場所を用意してあげられるかどうか。それはかなり重要な親の役割です。
18歳になったら1人暮らしさせる
安心して帰れる場所を用意した後は、そこから追い出さなければなりません。居心地のいい家がいつまでもあると、その先何年、何十年も出ていかないということになりかねないからです。
私は常々、「18歳で子どもは外に出しましょう」と言っています。つまり、高校卒業のタイミングです。進学するにせよ、働くにせよ、家から一度出すのがいいのです。なぜか。このことが、子どもの自己肯定感を大きく上げることにつながるからです。
今、みなさんがお子さんに与えている生活は、かつてないほど高水準のものです。人類史上最高と言ってもいいでしょう。そしてこれ以上、上げることもかなり難しい。しかし、1人暮らしをすれば、生活水準はガクッと下がります。そしてそれが上がったときに、自分の力を感じることができるようになります。
中国の若者は、なぜ生活への満足度が高いのか
日本の若者の保守化傾向は、この高い生活水準にも原因があると考えられます。下がる可能性のほうが高いから、新しいことへの挑戦を躊躇してしまう。それと同時に、今の生活水準は親がつくりあげたものであって、「自分でつくりあげたものではない」ということもわかっています。それゆえに、漠然とした不安を抱えているのです。
これは、日本と中国の若者を比較するとあきらかです。生活に対する満足度を比べると、高い生活水準で暮らしている日本の若者よりも、中国の若者のほうが高い。なぜなら、中国の若者は毎年生活水準が上がっていくことを実感しているからです。
ところが日本の若者の場合、「落ちるかもしれない」という不安があるために満足感が低い。生活水準とその満足度は、必ずしも一致するわけではありません。むしろ大切なのは、「自分の力で生活水準が上がっている」という実感です。階段を上っていることを感じられれば、何かをやろうという気持ちも生まれます。
良いマンションを借りてあげてはいけない
落ちる不安に怯えて暮らすくらいなら、いっそ落としてしまえばいい。それが18歳での1人暮らしです。厳密には、1人で暮らす必要はありません。下宿でも寮でも、親元から離れて暮らすということです。例えば東京や大阪などの大都市は家賃も高いですから、下宿や寮が現実的な選択肢となるかもしれません。立派なワンルームマンションを借りてあげる必要はありません。いえ、借りてあげてはいけないのです。
東京には、地方から、海外から、たくさんの学生が集まっています。みんながいいマンションに住んでいるわけではありません。あまりキレイとは言えない寮や下宿を選ぶ学生も、もちろん多くいます。都心にも、風呂なし、トイレ共同といった物件はたくさんありますし、そういった物件は「バストイレ付き物件」と比べると、たいてい3~5万円ほど安く借りることができます。
親元を離れた生活を、そういった環境からスタートさせれば「自分はどこでも生活できる」という自信をつけることもできます。それこそ働いて「バストイレ付き」の部屋に引っ越したとしたら、自分の成長を肌で感じることができるもの。「一国一城の主」といった気分を味わえるかもしれません。
給料日に食べたハマチは、舌の上でとろけた
もう1つ、自分の成長を感じられるのは、なんと言っても「食」です。子どもの頃、私の家は商売をしていて、夕飯での晩酌は父の楽しみの1つでした。母はそのために、日本酒に合いそうな刺身や焼き魚をいつも父の前に出していました。その魚が本当に美味しそうで、子どもの私が「あの魚を食べたい」と言うと、母は決まって「稼げるようになったら食べなさい」と言っていました(笑)。
私は大学生になって自分から家を出ました。塾や家庭教師で生活費を稼ぎ、バイト代が出た日だけそれを握りしめ、飲み屋へ行ってハマチの刺身を注文しました。ちょうどハマチの養殖が始まった頃で、脂がのったハマチは舌の上でとろけるようでした。心の底から「うめえなぁ」と思ったものです。「このためにバイトをしてるんだ」という感じでした。子どもの頃、横目で見ていた父親の肴を自分で食べられるようになったのですから、「自分で稼げるようになった」という実感がありました。
狭いアパートですし、給料日のハマチ以外は大したものは食べられませんでしたが、生活にはとても満足していました。「自分の力で美味しいものを食べる」というのは、男子には特に響きます。自分の成長が感じられるのは、こんなときなのです。
「結婚できるか」を悩むなら、家から出した方がいい
今のご家庭は、お父さんが家で食事をすることが少ないこともあり、子ども中心の食事になりがちです。それならなおさら、家から出さなくてはなりません。なぜなら母親が自分のためにつくってくれる食事が、一番いいに決まっているからです。
「息子が結婚できるかどうか」を悩んでいる親御さんは非常に多いのですが、家にいる息子のために尽くしている間は、難しいかもしれません。脱ぎ捨てたパンツも、いつの間にかキレイに洗濯されて"自然に"タンスに入っているし、トイレットペーパーも"自然に"補充されている(笑)。誰かがそれをしている、ということに思い至ることはありません。
しかし、1人暮らしでパンツを脱ぎ捨てて出かけたら、帰るとそのままの形で部屋にぽつんと残っている。イヤですよね。冬に家に帰れば、暗くて寒い。寒さが身にしみるのです。そんなとき、シチューをつくって待っていてくれる彼女がいたら、「このまま一緒にいようか」となります。結婚が早くなるのです。
かつては、15歳で独り立ちしていた
実家に住んでいたら、寒い冬でも暖かい家で母親が自分の好物を料理して待っていてくれます。「彼女のシチューより、やっぱりお袋のシチューだよ」となる。当たり前です。子どもの頃から食べているのですから。そうすると、母親は息子が50歳になっても、パンツを洗ってシチューをつくることになるのです。
童謡の「赤とんぼ」に歌われているように、15でねえやは嫁に行きましたし、最初の東京オリンピックの頃、集団就職列車に乗っていたのは中学を卒業した15歳の少年少女でした。数十年前までは、中学を卒業すると独り立ちをしていたのです。それが今は18歳。決して早いということはありません。
お子さんには、「18歳になったら家を出なきゃいけない」という話を、早めにしておきましょう。17歳になって「来年は家を出てね」といきなり言われるより、子どもにとってもずっといいはずです。心の準備のための時間と適度な緊張感を、子どもに持たせてあげてください。
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柳沢 幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
開成中学校・高等学校校長
1947年生まれ。東京大学名誉教授。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに複数回選出)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て2011年より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。著書に『ほめ力』『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』など多数。
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(開成中学校・高等学校校長 柳沢 幸雄)
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