プロフィール

2023年3月11日土曜日

ある高等学校でのことだそうです。
夏休み、水泳大会が催されました。
そのプログラムの中に、学級対抗のリレーが組み入れられました。
 ある学級で、リレー選手を誰にするか、学級会が行われました。三人まではすぐ決まりましたが、残りの一人を誰にするかで紛糾しました。
そのとき、「『A』に出てもらおう!」と叫んだ者がありました。
いじめグループの番長の叫びでした。『A』さんというのは、女生徒で、しかも、小児マヒで、不自由な体の生徒でした。とても、泳げるような体ではありませんでした。『A』さんを泳がせて、笑いものにしようという番長の意図だったのです。
それなのに、一人も反対する者はいませんでした。
それどころか、「そうだ!」「そうだ!」「『A』に出てもらおう!」という声が、湧きおこりました。
番長に逆くと、どんなことになるか、それを知っている番長の手下たちの叫びだったのです。

 当日です。プログラムが、学級対抗のリレーに移りました。『A』さんの泳ぐ番になりました。残酷なことです。
一メートル進むのに何分もかかる有様です。
まわり中から冷笑の声が湧きました。その中を『A』さんは必死で泳ぎました。

 そのときです。背広のままプールにとび込んだ人がありました。

「つらいだろうが、がんばってくれ!」「つらいだろうが、がんばっておくれ!」と、一緒に、泣きながら進みはじめました。

 罵声、冷笑がピタリとやみました。励ましの声に変わりました。

 『A』さんが、長い時間をかけて、二十五メートルを泳ぎぬいたとき、先生も生徒も、一人残らず、泣きながら『A』さんをたたえました。
 プールの中にとび込んだ人は、その高校の校長先生でした。
みんなの笑い者になりながら、必死で泳いでいる『A』さんを見ると、見るに忍びず、そうせずにはおれなかったのです。

 その高校にもあった「いじめ」は、ピタリと止んだそうです。

校長先生の、「ことば」を超えた、「身」の叫びが、学校を変えたのです。

(出典 東井義雄著『喜びの種をまこう』(柏樹社)133頁 

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