プロフィール

2015年11月15日日曜日

無題

■「人生はあなたに絶望していない」
  柳澤桂子(生命科学者)
  &
  永田勝太郎
(公益財団法人国際全人医療研究所代表幹事)

【永田】
柳澤さんがご自身の闘病体験や科学者としての視点をもとに『般若心経』を説き明かされたご本『生きて死ぬ智慧』は大きな反響を得ましたね。

【柳澤】 
ありがとうございます。ご存じのように『般若心経』の中心にあるのは「空」という思想ですね。微塵な物質があってそれが寄り集まったり組み合わさったりして「色」という物の形になる。粒子は刻々と変化し形を変えていくわけですが、もともとは色も香りも味も触覚も何もないんです。しかも、その形は常に動いて留まることがない。
 
私という存在もまた粒子の集まりで、私の周りにある粒子と常に入り交じっている。そう考えると宇宙全体がすべて繋がっている。宇宙と私たちは一体なんです。別の見方をしたら、「私」「あなた」という人間的な考え方は錯覚であり、本来皆一元的なものなんです。そうすると自我というものもなくなってしまう。

私もあなたも同じなのだから、意地悪したとか、されたとか、そういうことはなくなってしまいますよね。同じように生きることも死ぬこともない。誰かが亡くなったとしても、同じ粒子なのだから悲しむこともないわけです。

思い出を一つお話ししますと、私はある日、電動車椅子で散歩をしていました。すると綺麗に着飾った奥様が寄ってきて「大変でいらっしゃいますね」と声を掛けてくださったんです。気持ちのよいご挨拶で、それまでだったら何とも思わなかったのでしょうけど、この時は不思議と心に何か引っかかるものがあって、車椅子を止めて考えました。

「私は憐れみを受けたのかしら」。そう思ったら、何か大きなものに背中をドーンと突かれた感じがして「それは、私がそこにいるからだ」と声がしたんです。これも一種の神秘体験でしょうけど、私がいなければ、憐れみを受けることもありません。私はこの時、私という自我がなければ、この世に苦しみはないということを強烈に感じました。生きるのがとても楽になったのは、それからですね。



致知より



押忍(^^;;

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