父と子
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父は中学校の校長をしていた。
自分が負けず嫌いだったから、
娘に対しても小さい時から
「偉くなれ」と言って育ててきた。
大きくなると、さらにその上に、
「人よりも偉くなれ」と育てた。
小学校から高校まで、娘は順調に伸びていった。
だが、東京の大学に進むとそうはいかなくなった。
いくら努力しても自分より優れた人が数多いる。
娘は絶望し、電車に投身自殺をした。
「両親の期待にそうことができなくなりました。
人生を逃避することは卑怯ですが、
いまの私にはこれよりほかに道はありません」
残された手紙にはそうあり、続けてこう書かれていた。
「お母さん、ほんとうにお世話さまでした。
いま私はお母さんに一目会いたい。
会ってお母さんの胸に飛びつきたい。
お母さんさようなら」
これを読んだ母は狂わんばかりに娘の名を呼び号泣した。
この父は東京家庭教育研究所の創設者、
小林謙策氏(故人)。
小林さんは言う。
「子どもは這えば立ちたくなり、
立てば歩きたくなり、歩けば飛びたくなる。
これが子どもの自然な姿。
子どもは無限の可能性を持って伸びようとしている。
それなのに私は愚かにも"人より偉くなれ"
と言い続けてきた。
"自分の最善を尽くしなさい"だけで、
娘は十分に伸びることができたはず。
私は娘の死によって、
家庭教育の重要性を痛感しました」
以後、小林さんは家庭教育の探求と普及に
生涯を捧げ、平成元年に亡くなられた。
自分の最善を尽くしなさい――
一人娘の自殺という悲痛のどん底で掴んだ
父としての覚醒である。
ある宗教新聞に掲載されたという
死亡告知も忘れられない。
(本書に続く)
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『小さな修養論4』 藤尾秀昭
致知出版社様メルマガよりシェアさせていただきました。
押忍
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