「忍を懐いて慈を行じる」とは、
すばらしい言葉であると思う。
しかし、いくら理論の上で
なるほどその通りだと頷けたとしても、
実際には、腹が立ち、
憎しみの感情が湧いてしまうのも、
人の世の常であろう。
修行道場では、常に先輩から厳しい指導を受ける。
叱咤されることは日常である。
私なども、これだけ一所懸命やっているのに、
一体なぜこんなに叱られるのか、
全くわけが分からず、理不尽な仕打ちに、
当時の老師に
「こんなに叱られてばかりでは、
とてもやっていけません」
と訴えたことがある。
老師は、涼しいお顔で、ただ
「修行というのはそういうものです」
とのみ答えられた。
そして、静かに
「私もね、よく叱られました。
叱られて、叱られて今があります」
と、まるで何かを懐かしむようにつぶやかれた。
「そうだ、そういえば、修行に出る時に、
修行とは堪え忍ぶことだと教わったはずだった」
とようやく気がついた。
それがまたしばらく経つと、忘れてしまい、
堪えられない思いに駆られてしまう。
また「堪え忍ぶことこそ修行」と思い起こす。
そんなことを幾度も幾度も繰り返して
今日に到っている。
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著者紹介
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横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。
在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。
平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。
22年臨済宗円覚寺派管長に就任。著書に
『名僧に学ぶ生き方の知恵』『人生を照らす禅の言葉』
(ともに致知出版社)などがある。
致知出版社様メルマガよりシェアさせていただきました。
押忍!
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