■「人間として正しいことを追求する」
稲盛和夫(京セラ名誉会長)
(稲盛)
私はまったく経営というものを知らなかったのですが、縁あって27歳のときに京セラという会社をつくっていただき、経営することになりました。従業員28名の小さな会社でしたが、創業するとすぐに決めなくてはならないことが山ほど出てきました。「これはどうしましょうか」と次々社員が決裁を求めてきます。
私はそれまで経営の経験があるわけでもなく、経済も経理も知りませんでしたが、それでも判断を下していかなくてはなりません。私は何を基準に判断していけばいいのか分からず困り果てていました。
悩み続けた結果、「人間として何が正しいか」をベースにして、つまり、最も基本的な倫理観に基づき、「人間として正しいことなのか」「正しくないことなのか」「善きことなのか」「悪いことなのか」を基準にして判断していくことにしたのです。
「人間として正しいことを追求する」ということは、どのような状態に置かれようと、公正、公平、正義、努力、勇気、博愛、謙虚、誠実というような言葉で表現できるものを最も大切な価値観として尊重し、それに基づき行動しようというものです。
現在の社会は、不正が平然と行われていたり、利己的で勝手な行動をとる人がいたりと、決して理想的なものではないかもしれません。しかし、世の中がどうであろうと、私は「人間として何が正しいか」を自らに問い、誰から見ても正しいことを、つまり、人間として普遍的に正しいことを追求し、理想を追い続けようと決めたのです。
いま考えてみますと、何の経営の経験もない私が、京セラやKDDIをそれなりの企業に育てることができましたのも、このような「人間として正しいこと」をひたすら追求してきたからだと思うのです。
※月刊『致知』1997年11月号より
致知出版社様メルマガよりシェアさせていただきました。
押忍!
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