江戸時代に門弟三千人を数えた大儒学者・伊藤仁斎。
その仁斎と弟子が約300年前に行った問答を
一冊にまとめた書物が『童子問』です。
仁斎の畢生の大作と呼ばれるこの『童子問』を、
現代の碩学・渡部昇一氏がひもといた
『伊藤仁斎「童子問」に学ぶ』が
今月末、発売になります。
『童子問』で、師・伊藤仁斎とその弟子は
どのような問答をしているのでしょうか?
本書に収録された50篇の問答の中から、
その一篇をご紹介いたします。
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《質問》
「天下に最も貴き善とはなんでしょうか?」
《回答》
「賢人を大事にすることより貴い善はない。
上は王・公爵から下は庶民に至るまで、
いまだ賢人を尊ばずによく身を修め、
四端の心を保って、大きな成果を挙げた者はいない。
では、賢とは何かというと、
それは自分より賢まさっている者すべてをいうのだ。
ただし、賢ぶっているというのは
学問のあるなしとは関係ないことだよ。
こうした賢者を尊ぶことはとても重要なことであって、
万事の本になる。後世の人々が古人に及ばない理由は、
主として賢者への尊敬が欠けているところにある。
時代が下がると賢を尊ばないだけではなく、
賢人を妬み、あるいは侮り辱しめ、
はなはだしくは世の中に認めさせないように
邪魔をするようになってしまった」
*
世の中には良いことに敏感な人と、
悪いことに敏感な人がいます。
たとえば、田中角栄さんが多額の企業献金を
もらったことを非常に問題視して、
悪人であると敏感にいい立てる人がいる一方で、
田中角栄がいたから日本中に道路ができ、
道路ができたおかげで日本の自動車産業が興隆した、
あるいは雪の多い地方に新幹線が通ったと、
その功績をたたえる人もいます。
同じ人物への評価でも、
良いほうを見るか悪いほうを見るかは、
その人の考え方次第で大きく変わってしまいます。
世の中には良いほうは
全く見たくないという人もいるようです。
そういう人は、立派な人に嫉妬をしたり
侮辱するようなことをしたり、
悪い噂を流して世に出るのを邪魔したりするというのです。
しかし、人の足を引っ張るような者が世の中で
成果を挙げたという話は聞いたことがないと
仁斎はいっています。
谷沢永一先生は
「まことの賢人は、世間の密室を突き進んで、
その上へと飛翔する気力と才覚の持ち主」
といっています。
嫉妬や噂に挫けるようでは
本当の賢人にはなれないということでしょう。
これもまた真実であると思います。
致知出版社様より
押忍!
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