プロフィール

2016年2月27日土曜日

「考える葦」としての人間を生きる
(昭和四十七年三月二十三日)


どうです、だいぶ慣れましたか。
なんかみなさんの顔は最初の日に見た時よりも
やわらかくなっています。
いい顔になっています。

顔のことをいえば、自分の顔でありますが、
同時にこれは社会に公開しておるものです。
顔だけは裸であります。

そういう意味では、顔は法律的には
確かに自分のものです。

しかし影響から考えたならば、
明るい顔が明るい社会を、
暗い顔が暗い社会を呼ぶように、
顔は同時に社会のものであります。

そういう意味で、化粧をしない素顔と
多少化粧をした顔は目の慣れない人には
違って見えますが、いかように化粧をしても
慣れた人の目から見たらば顔は裸であります。

私は実は神経の専門であって、
同時に表情筋肉の運動と神経が
私の本当の専門であります。

したがって、顔も私の研究材料の中に
入っているのであります。
美しくともつまらん顔があります。

そして、いわゆる世間的に
美しくはないけれども、
誠に素晴らしい顔があります。

望ましいのは、世間の人が見てもきれいで、
我々研究者が見てもよい顔が
いちばんよいのでありましょうが、
そのよい顔というのはみなさんの
生まれたままでもってきた
顔ではないのであります。

それに精神の美が加わらなければ、
本当の化粧の仕上げは
できないのであります。

いかように化粧をしても、
最後はもうひとつ加えて、
心の化粧がなければ
本当の顔にはならんのであります。



京大元総長・平澤興先生による幻の講話録
『平澤興講話選集「生きる力」』(全5巻)



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押忍 石黒康之

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