プロフィール

2017年10月17日火曜日

「ありがとう」「感謝します」は魔法の言葉

【感謝の心】

昔、仲の悪い嫁と姑がいました。

姑は、病気がちでいつも機嫌が悪く、
事あるごとに嫁をいびります。

「うちの嫁は、要領が悪くて、怠け者で……」

と本人に聞こえるように言うだけでなく、
近所や親戚にも言いふらします。

夫は、嫁の前では、「お母さんは言い過ぎじゃないか」
とは言うものの、
病気の母親の前に出ると口答えのできない人です。
 
嫁は姑にいびられるたびに、いい嫁になろうと努力します。
 
しかし、いくら努力しても、陰湿ないじめをやめない姑に
次第に憎しみを募らせていきます。

遂には、いっそ姑が消えていなくなればよいと思うほどに
なりました。

そんな暗い思いをもつ自分に、嫁はまた苦しみました。

そこで、あるとき、信頼できる僧に自分の悩みを打ち明けます。

するとその僧は、こう言いました。

「そうか、ではお前の望みをかなえてやろう。

簡単なことだ。

この薬を姑の食事に少しずつ混ぜるのだ。

すると、姑の体はだんだん弱まっていき、
一月もすると消えてなくなるじゃろう」

嫁は驚きました。

「……つまり、一月で死ぬということですか?」

 
僧は平然としていました。

「人は皆、死に向かっておる。

誰でも老衰する。
 
ただそれを早めるだけのことじゃ」

「でも……」

「ただし、この薬を使うにあたって一つ条件がある。

この薬を入れた食事は多少味が悪くなる。

姑に気持ちよく食べてもらうためには、

食事を出すごとに、

何でもいいから感謝の言葉を述べるのだ」

「感謝の言葉、でございますか?」 

嫁は食事に薬を混ぜるよりも、姑に感謝の言葉を口にする
方がずっと難しいような気がしました。
  
 
家に帰ると、姑のいつもの突き刺すような目が待っていました。

「どこで油を売っておったのか、お前はいつも帰りが遅い、
グズで要領が悪い」

などと姑から罵詈雑言を浴びせられました。

「申し訳ありません」

 
嫁は頭を畳につけて謝ると、台所に駆け込み、涙ながらに、
食事の支度にとりかかりました。
 
そして、良心の呵責を覚えながらも、僧からもらった薬を
少しだけ混ぜて姑の前に出しました。

僧から言われたとおり、何か感謝の言葉を口にしなければ
なりません。

「お母さん……」

「ふん、なんだい、また同じようなおかずか。

お前は料理が一向に上達せんの」

「はい、ありがとうございます」

「何?なんだって……」

「ありがとうございます」

「どういうことだ」

「私は、本当に料理が下手です。

ですから、お母さんが私の下手な料理でも食べて

くださるだけで、ありがたく思うんです」

 
姑はちょっと不思議そうな顔をしましたが、
黙って料理に箸をつけました。
 
そして、黙々と食べると箸を置く前に一言つぶやきました。

「今日の料理、ちっとはうまかったぞ」
 
嫁は驚きました。
 
なぜなら、初めて姑に誉められたからです。

 
そんなことがあっても、これまで積もりに積もった姑に
対する憎しみが消えるはずはありません。

 
嫁は僧が言ったとおり、料理に少しずつ薬を混ぜ、
姑に毎回必ず感謝の言葉を言うようにしました。
 
お母さんに、味噌汁の作り方を教えてもらったこと。
 
お母さんに、掃除の仕方を教えてもらったこと。
 
お母さんに、裁縫のコツを教えてもらったこと。
 
自分はまだ十分にできないが感謝していると繰り返し
伝えました。
 
お母さんから言われてきた数々の叱責の言葉も、
自分の励ましにしていきたいと感謝しました。
 
嫁は、始めは心にもない言葉を並べているように思えました。
 
しかし、毎日感謝の言葉を口にするたびに、
自分の心が次第にほぐれていくのが不思議でした。

 
そうしているうちに、姑の嫁に対する態度が明らかに
変わっていきました。
 
嫁を見るときの顔が柔和になってきました。
 
それどころか、陰で、嫁のことを誉めることもありました。

 
夫には「お前はいい嫁をもらった」と言い、

近所や親戚には

「うちの嫁は息子が選んだだけあって、できた女だ」

と自慢するようにもなったのです。

それに応じて、嫁は姑に対する憎しみが薄らいでいきます。
 
それどころか、病気がちで立つことも歩くこともできない
姑の身になってみると、これまでの自分に細やかな愛情が
足りなかったのだと気づかされました。

 
嫁の心に次第に激しい後悔の念が湧き上がります。

私は、あの姑を体よく老衰したように見せかけ、
毒殺しようとしている。
 
なんという恐ろしいことだ。

なんという罪なことだ。

いたたまれなくなった嫁は、僧のところへ駆け込みます。
 
そして、泣きながらに訴えます。

 
「お坊さま、私の間違いでした。

私は、なんと罪深い女でしょう。

どうかどうかお許しください。

お坊さま、ともかくお母さんを死なせたくありません。

どうかあの毒を消す薬をください。

お願いいたします。

お願いいたします」

泣いて頼む嫁に、僧は言いました。

「案じるな。

あれはただ海草を粉にしたものだ。

毒ではない。

毒を消す薬、と申したな。

覚えておきなさい。

心の毒は、感謝することで消えるものじゃ。

どうやらお前の心にあった毒は、もうすっかり消えて

しまったようだな」

出典元:読むだけで「人生がうまくいく」48の物語

中井俊己著 


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