明治大学教授、齋藤孝氏の心に響く言葉より…
あなたは日々の生活のなかで、次のような人を見かけたことがないでしょうか。
朝の通勤ラッシュ時、満員電車で少し肩を押されただけで舌打ちをしている人。
ご近所同士で挨拶しようとすると、スタスタと歩いていってしまう人。
スーパーマーケットで小さな子どもが泣き出しただけで、眉(まゆ)をひそめる人。
飲食店のスタッフが少し雑談をしているだけで、クレームをつける人。
電車がちょっとでも遅延すると、駅員に詰め寄って怒鳴る人。
ベビーカーを見かけると、「邪魔」という感情を隠さない人。
朝出社したときに、同僚に挨拶もせず、仏頂面でデスクに向かう人。
会議で自分の提案がうまく通らなかったといって、つっけんどんになる人。
部下が失敗したときに、周囲の目も気にせず、ヒステリックに怒鳴りつける人。
挙げていくときりがありませんね。
どれも、おそらく心当たりのある光景ではないでしょうか。
しかもこうした行動をとっている人には、地位も分別もありそうな方もかなりいらっしゃいます。
もしかしたら、あなた自身もこれらの行動をとってしまい、後悔したこともあるかもしれません。
あるいは、自分がそうした行動をとっていることに気づかずに、周囲から「あの人って不機嫌だな」と敬遠されている可能性もあります。
機嫌とは、人の表情や態度に表れる快・不快の状態です。
つまり不機嫌とは、不快な気分を表情や態度に表しているさまをいう言葉です。
現代を生きる人の多くがかかえているのは、行き場のない「慢性的な不機嫌」です。
情報伝達の差し迫った必要性があるわけでもなく、不快であることを伝えても事態は何も解決しないのに、無意味な不機嫌を世の中に撒(ま)き散らしている人があまりにも多い。
電車の中で舌打ちしたからといって、満員電車が解消されるでしょうか?
インターネットで書き散らした罵倒(ばとう)が、社会を良くしたことがあったでしょうか?
誰も「舌打ちや罵倒をしたら事態が良くなる」と思っているわけではないのに、表に不機嫌が滲(にじ)み出てしまっている。
現代人は四六時中誰かの不機嫌な言動にさらされ、ちょっとずつ精神を消耗しています。
そして自らも、知らず知らずのうちに不機嫌に侵食されてしまっているのです。
中年から老年にかけての男性の不機嫌の問題をいち早く取り上げたのが、シェイクスピアの『リア王』でした。
リア王は、愛情深い末娘が自分におべかを使わないことに激昂(げきこう)して彼女を追放し、甘言を弄(ろう)する上の娘たちをかわいがった結果、身を破滅させて荒野をさまようことになります。
老人の不機嫌が招く悲劇をこれ以上なく描いた作品です。
さすがにこの本をお読みの方の中に国王はいないでしょうが、身につまされっる教訓が詰まった作品です。
プチ「リア王」にならないためにも、まずは自分の不機嫌に自覚的になってみてください。
「40歳を過ぎたら、普通にしていても不機嫌そうに見える。上機嫌くらいでちょうどいい」と自覚するだけでも変化が起きます。
「いつも上機嫌」と聞いたとき、あなたはどんな印象を抱くでしょうか?
お調子者で何も考えていない不用意な人なのではないかと考える人も多いかと思います。
逆に「いつも不機嫌」というと、しかつめらしい顔をして難しいことを考えている、つまり「頭がいい人」と考えるのではないでしょうか。
知的な人間はやたらとニコニコと愛想よくふるまわない、作家や学者というのは根暗で不機嫌なものだという風潮が根強く存在しています。
まず正しておきたい誤解が、知性と機嫌は決して結びついてはいないということです。
機嫌というのは、理性や知性とは相反する分野のように思われがちですが、気分をコントロールすることは立派な知的能力の一つです。
仏頂面をしている人、他人に辛辣(しんらつ)なことを言う人のほうが、よく物を考えているように思えるかもしれません。
ところが実際は、前向きに生産性のあることを考えている人の頭やからだは柔軟に動いています。
表情もやわらかですし、ポジティブな空気を発するものなのです。
不機嫌がクセになると、頭も身体も動きにくくなります。
運動不足と同じで、こころの運動能力が下がってしまうんですね。
気分をコントロールすることはこころの運動能力を維持し、仕事や人間関係のパフォーマンスを上げる知的技術です。
『不機嫌は罪である』角川新書
「人間の最大の罪は不機嫌である」
と言ったのはドイツの詩人である、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。
人間の最大の罪とはかなり大袈裟のように感じる。
しかし、笑顔やあくびが伝染するのと同じように、不機嫌もあっという間に伝染するということを考えるとそれも納得できる。
家庭や会社の中において、朝から晩まで、全員が不機嫌だとしたら、その家庭も会社も、早晩(そうばん)崩壊してしまう。
上機嫌も不機嫌もあっというまに周りに伝染する。
どうせ伝染するなら上機嫌の方がいいに決まっている。
毎日を、上機嫌で暮らしたい。
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