中村天風さんと、その師匠であるインドのヨガ聖者"カリアッパ師"のやりとりです。
天風さんが当時は不治の病とされていた奔馬性結核を発病し、
何としてでも治そうと欧米諸国を訪ねたが、その手がかりはなく病も進行、
自らの死を悟った天風さんは、「死ぬなら祖国で」ということで帰国の路に・・・
その途中で出会ったのがカリアッパ師。
初対面の天風先生に、
「お前は救われた」と言ったそうです。
以下、ちょっと長いかもしれませんが、お時間のある時にどうぞ♪
_______
「お尋ねしたいことがあるんですが」
「なんだ」
「カイロでおっしゃったお話は、いつごろからうかがえるんでしょう」
「カイロで何と言ったっけな」
「えっ、お前はまだ救われる人間だ。
だが、自分が助かる大事なことを一つ忘れている。
それを教えてやるから、ついて来い。
そのお言葉で、私はここまでついてきたのです」
「ああ、あれか。あれなら覚えているよ」
「いつごろから教えていただけるのでしょう」
「私の方は、ここへ着いた翌日からでも教えたいと、その準備が出来ていた」
「えっ、私はまた、ここへ着いた翌日から、教わりたい準備が出来ていたんですよ」
「いや違う。準備が出来ていたのは、私の方だけだ。
毎日毎日、お前の顔を見て、顔を見るたびに、まだ準備が出来ていないな、と思うので、いったいこの男は、いつになったら本当に教わる気になるのかな、と思ってな。
私のほうから、それを催促したかったんだよ」
「これはしたり。全然話が違います。
私は来た日から教わりたくて、教わりたくて」
「お前はね、気持ちをそういうふうに偽って言うが、私の霊感にうつるところは、お前はまだ、本当に教わる準備が出来ていない、と見るよ」
「いや、その準備は出来ています」
「ああ、お前は強情だな。
お前自身の心の中は、お前自身より、私の方がよけい知っている。
その証拠は、すぐ見せてやる。
あの水を飲む器に、水をいっぱい注いでおいで」
言われるままに、その器にいっぱい水を注いで、それを持ってきた。
すると、また今度は、「お湯をいっぱい持って来い」
それでまた言われるままに水をそこに置いて、またお湯を持ってきたら、
「そのお湯を水の上から注げ」
あまり馬鹿馬鹿しいことなんで、私はこう言ったんですよ。
「このお国ではどういうふうに考えているかしりませんが、文明の民族は、いっぱいはいっている水の上から湯を注ぎますと、両方ともこぼれる、ということを知っております」
と言ってやった。
(中略)
そしたらね。
「それを知ってるのか」と言いやァがる。
「存じていますよ」
「それがわかったら、さっき俺がお前に言った言葉はわかる筈だ」
「さっき私が言ったこととこれは違うでしょう」
「違わないね。同じことだ」
「私は同じことだということを、どうしても了解できません」
「そうかい。それほどまでにお前の頭の中が愚かしいとは思わなかった」
と言うんです。
なんだ。こっちは文明民族なのに、野蛮人から冷やかされていると思ったから、言いました。
「その理由をうけたまわらせていただきましょう」
「聞かせよう。
私が毎日毎日、お前をつれて来た翌日からでも教えたいと思って、お前をじっと見ていると、
お前の頭の中はな、私がどんないいことを言って見ても、そいつをみんな、こぼしちまう。
さっきの、水のいっぱいはいっているコップと同じようにな。
そういう状態だと見ているんだ。
いつになったらコップの水をあけて来るかな。
水をあけて来さえすれば、そのあとで湯を注ぎこんでやれば、湯がいっぱいになるんだがな。
と思っているんだが、いっこうに水をあけて来ない。
お前の頭の中には、いままでの役にも立たないへ理屈がいっぱい詰まっている以上、いくら俺が尊いことをいって見ても、それをお前は無条件に受け取れるか。
受け取れないものを与える。
そんな愚かなことは、俺はしないよ。
わかったかい?」
_______
「天風先生座談 改訂版」
宇野千代 著
廣済堂出版
_______
シェアさせていただきました。
押忍
0 件のコメント:
コメントを投稿