「ヒルティから学んだこと」
渡部昇一
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——エピクテートスの哲学というのは?
一種の"悟り"の哲学です。
どういうことかというと、
自分の置かれた環境の中で、
自分の意志で自由にならない範囲を
しっかりと見極めるということです。
自分の意志の範囲にあるかどうか。
そこにすべてが、
かかっているということです。
ただ、それがはっきりと
わからないとだめです。
はっきりわかると、
自分の意志の範囲の中にあるものは、
自分が考えて最善の手を打つ。
打ちたくなければ打たなくてもいいが、
すべては自分の意志の範囲にないもの、
これはあきらめる。
こういうものに対しては、
絶対に心を動かさないということです」
——なるほど。
外界のもの、地震とか天災とかは
自分の意志の範囲にない。
友人や世の中の人が自分をどう思うかも、
自分の自由にはならない。
こういう自由にならないものに、
自由にならないといって、腹を立て、
心の平静を失うのは
愚かだということです。
こういう物に対しては
絶対に自分の心を騒がせない。
例えば、ぼくが三十年前に
上智大学を一流大学と思ってもらいたい、
やってることはいいんだからといったって
他の人は認めないものはどうしようもない。
これは意志の範囲にはないんです。
ところが、教えられていることは
ついていくのが苦しいくらい
高級なものをびしびしやっている。
すると、これを十分に消化するために
毎朝、五時に起きて朝めしまで
二時間勉強することから
始めようというのは、
それをやるかどうかはまったく、
これは自分の意志の範囲です。
意志の範囲にあることは
いいわけをしないで、自分でやる。
で、意志の範囲にないことは
問題にもしない。心を動かさない。
まぁ、こういうのが、
ヒルティから学んだことの一つでしょうね。
☆☆☆
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