プロフィール

2017年9月13日水曜日

二宮尊徳先生

青木村の復興に携わっていたある時、
老人と子供を連れて他国に
逃げ出そうとする農民を見た尊徳は、

「どうして先祖代々の家がある
この故郷を離れようとするのですか」

と聞いた。その男は、

「貧苦で、借金の催促が厳しいので
 仕方がないのです」

 と答えたので尊徳は、

「そうですか、ではあなたに
 唐鍬をやろう。
 その鍬によって貧苦を除き、
 借金を返し富裕になりなさい。

 家も田もあるこの村で
 一家を保つことが出来ないのに、
 家も田もない他国では
 余計に生活はできないものです」

 と言った。農民は、

「お言葉ですが、たった一つの鍬で
 富を得て借金を返せるくらいなら、
 こんなどん底に落ちはしません」

 と言った。そこで尊徳は、

「あなたは富を得る道を知らないから
 困窮したのです。
 今から私の教えに従って、
 この鍬のこわれるまで
 荒地の開拓に励んだならば、
 必ず多くの開田が出来るのです。

 その方法というのは、
 今あなたが持っている田を
 全て売り払い、その代金で
 借金を返済してしまうのです。

 そして私が与えたこの鍬で、
 新しく開いた田を耕しなさい。
 なぜなら、新しく開墾した土地は
 七、八年くらい無税だから、
 そこでとれた米は
 全部あなたのものになるのですよ。

 このようにして、
 租税のかかる田を売って
 借金を返済し、
 租税のかからない田を耕すならば、
 富裕を得ることが出来るのです。

 これが、鍬一つで
 富裕が得られると
 いうわけなのです。

 生まれ故郷を捨てて、
 危険な他国に行くことはおやめなさい」

 と諭した。農民はしばらく考えてから、


「わかりました。
 お教えに従って
 一生懸命頑張ってみます」

と言ったので、尊徳は唐鍬を与えた。

こうして農民は田畑を売って
借金を払い、一家をあげて
開墾に尽力し、年々多くの産米をあげ、
積年の貧苦を免れて富裕を得た。

この話を聞き、村民は感心して、
互いに努力し合ったため
一村の開墾も早くできた。

尊徳が教え諭し、貧しい者に
富を得させるやりかたは、
しばしばこうした例があったという。


     * *


高慶が考えるに、青木村は、
衰頽の極と言うべき
ひどい村であった。

尊徳先生が深慮遠計によって、
適切な措置を
講ぜられなかったならば、
どうして窮乏飢餓を
免れることができたであろう。

そして先生の指導によって、
天下に感化出来ない民も、
開墾出来ない土地も
ないことが明らかとなった。

また名主の勘右衛門が
この村にあったのは、
たとえば蓮が泥の中に
あるようなものであった。

もし勘右衛門がいなかったならば、
先生もどうして良法を
施すことができたろうか。

古来、事の成否は
当事者の人物次第である。

小さな村さえこの通り、
まして大きな国においては、
なおさらのことである。



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二宮尊徳の言行を記した歴史的名著

『超訳 報徳記』


富田高慶・原著
木村壮次・訳


致知出版社様メルマガよりシェアさせていただきました。


押忍!

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