学校は貧しさのために断続せざるを得なかった。
彼が正規の教育を受けたのは、
合計しても一年に満たない。
二十代になって事業を起こす。
だが、失敗した。
その上、恋人の死という悲運に見舞われ、
自身は神経衰弱を患う。
その中でも彼は独学し続けた。
そして二十七歳の時、弁護士の資格を取得する。
労働に明け暮れた経験。
弁護士活動で得た見聞。
それが止みがたい夢と激しい志を育み、
彼を政治へ駆り立てた。
だが、なだらかな道ではなかった。
三十代では下院議員選挙に二度、
四十代でも上院議員選挙に二度、落選した。
四十七歳の時、副大統領選に立候補したが、
これも落選した。
しかし、彼は逃げなかった。
夢と志が逃げることを許さなかった。
そして大統領の座を射止めたのは五十一歳の時だった。
彼は南北戦争を戦い抜き、奴隷解放という新しい歴史を切り開いた。
彼の名はアメリカ第十六代大統領
エイブラハム・リンカーンである。
十八世紀から十九世紀にかけ、
世界に重くのしかかる難問があった。
梅毒の跳梁である。決定的な解決策を見い出せず、
密かに人類の滅亡さえ予感された。
曙光が射したのは二十世紀に入ってだった。
一九一〇年、梅毒の化学療法剤
サルバルサンが発明されたのだ。
発明者はコッホ研究所の研究者パウロ・エールリッヒである。
このサルバルサンは別名六百六号と呼ばれる。
ヒ素化合物の試作品を次々と作って、
六百六番目に初めて得られた目的を達する
薬だったからである。
つまり、エールリッヒは六百五回失敗を繰り返し、
その数だけ失望と苦悩を味わったのである。
研究にとって最も大事なものは何かと問われ、
エールリッヒはこう答えた。
「忍耐」。
時代の古今、洋の東西、分野の差異を問わず、
新しい歴史を切り開いた人たちがいる。
それらの人たちに共通する条件を一つだけ挙げれば、
こう言えるのではないか。
困難から逃げなかった人たち、
困難をくぐり抜けてきた人たち だと。
新しい時代に適った夢と志を実現する。
「歴史創新」とはこのことである。
そして、夢と志を実現しようとする者に、
天は課題として困難を与え、試すのではないか。
松下幸之助の言葉が聞こえる。
「百遍倒れたら百遍立ち上がれ。
万策尽きたと言うな。策は必ずある」
困難から決して逃げない――私たちの歴史も
そこから開けてくるのだと肝に銘じたいものである。
『心に響く小さな5つの物語』第2巻より
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『心に響く小さな5つの物語』
(藤尾秀昭・文/片岡鶴太郎・画)。
致知出版社様メルマガよりはシェアさせて頂きました。
押忍!
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