太田 成男(日本医科大学大学院医学研究科教授)
体がみるみる若返る!
細胞の中の小器官「ミトコンドリア」をふやす極意を伝授
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■ミトコンドリアの低下が認知症の一因
去年、私は、NHK教育テレビで放送されている「サイエンスZERO」という科学情報番組に出演し、ミトコンドリアについてお話ししました。
500回もの放送回のうちで、私の出演したミトコンドリアの回が、人気3位にランクインしたとのこと。
私は、もう30年以上にわたって、ミトコンドリアの研究を続けてきましたが、こうした一例を見ても、最近、ミトコンドリアのについての皆さんの関心が高まっていることがわかるでしょう。
ところで、そもそもミトコンドリアとは、なんでしょうか。
ミトコンドリアとは、私たちの細胞の中にある小器官の一つで、細胞全体の10~20%を占めています。
細胞によっては、100~3000個のミトコンドリアが含まれており、さまざまな役割を果たしています。
その中でも最も重要な役割が、エネルギーを作り出す働きです。
ミトコンドリアでは、食事から摂取した栄養と、呼吸から得られた酸素を使って、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーを放出する物質を作り出します。
ジョギングを始めると、同じ距離を走っても、最初のうちはとてもきつかったのに、走るのに慣れてくると、それほどきつく感じなくなります。
これは、運動によってミトコンドリアが増え、呼吸で取り込む酸素量はいっしょでも、効率的に酸素を使えるようになったためです。
最初は、エネルギーを生み出すのに必要な酸素を無駄にするため、ハアハアと息を切らします。
しかし、走ることで体内のミトコンドリアが増えてくると、エネルギー代謝がよくなり、酸素を有効に使えるようになるので、息を切らさずに走れるようになるのです。
近年の研究で、ミトコンドリアは、私たちの健康や老化の問題と、非常に深い関連があることがわかってきました。
年を重ねるについて、ミトコンドリアの量は次第に減ってきます。
また、ミトコンドリアには、質の良いミトコンドリアと、質の悪いミトコンドリアがありますが、
年をとったり、悪い生活習慣などが続いたりすると、「質の悪いミトコンドリア」がふえていきます。
それが、私たちの老化のスピードにも大きな影響を及ぼすのです。
ミトコンドリアの数が不足したり、質が低下したりすると、作られるエネルギーが不足します。
少ないエネルギーは、まず第一に呼吸や体温調節など、生きるためにどうしても必要な部分に優先的に使われます。
この結果、若さを保つために働いている老化防止機能や、遺伝子の修復作業などを行う長寿のためのシステムに、エネルギーが十分に回されず、それらのシステムがちゃんと機能できなくなります。
それが、老いや、ガンなどの病気につながってくるのです。
最新の研究によれば、ミトコンドリアの生み出すエネルギーの低下が、認知症の原因の一つとなっていることも分かってきています。
つまり、ミトコンドリアの量と質をよくしてやることによって、私たちは、エネルギーを作る能力をアップさせることができます。
それによって、体力がアップするだけでなく、年をとってもなお若々しく、健康な体を維持することが可能になるのです。
脳の問題に戻れば、脳のミトコンドリアが増えると、脳が使えるエネルギー量がふえ、認知症を予防するばかりではなく、集中力が増したり、発想力が豊かになったり、脳の機能全体がアップしたりすることも期待できます。
■運動前はできるだけ食事をとらない
では、どうすれば、ミトコンドリアを増やせるでしょうか。
それには、体にエネルギーを必要としていることを分からせることが重要です。
そのために、いくつかの方法があります。
■ややきつめの有酸素運動
まず、お勧めしたのが、ややきつめの有酸素運動です。
有酸素運動とは、酸素を使って脂肪を燃やす運動で、ランニングなどのことです。
普通は、体が脂肪燃焼を始める有酸素状態になるまでに、30分かかるとされていました。
1時間運動しても、有酸素運動となるのは、後半の30分だけ。
前半の30分は、その準備時間にすぎないことになります。
こういうと、釈然としない気持ちになる方も多いでしょう。
そこで、次のようにしてみましょう。
①初めに、30秒ほど小走りで走ります。
②次に、脈が整うまで1分ほど歩きます。
③30秒ほど小走りします。
これを繰り返すと、5分ほどで汗が出てくるでしょう。
こうすることで、短時間のうちに有酸素運動に入ることができます。
有酸素状態に入ったら、あと30分程度ジョギングやウォーキングをすればいいのです。
もちろん、有酸素状態に入る為の準備運動は、走ることだけに限りません。
5分程度行うと、汗が出てくるというのが一つの目安ですから、その目安が達成できるのなら、ダンベル運動でもかまいません。
ちなみに運動をする際には、その前になるべく食べ物を摂らないようにした方がよいでしょう。
体を、エネルギーが枯渇した状態にしたうえで運動することで、ミトコンドリアがより増えやすくなります。
ただし、糖尿病でインスリンを投与されている方は、低血糖状態にならないように注意してください。
■寒中水泳・サウナ後の水ぶろ
寒いところで運動することも、ミトコンドリアをふやす効果があることもわかっています。
寒さを感じると、体は、「エネルギーが必要だ」と判断し、ミトコンドリアをふやそうとするのです。
剣道や柔道などでは、冬の時期に、しばしば寒稽古が行われます。
また、なかには寒中水泳をした経験のあるかたがいらっしゃるでしょう。
寒稽古や寒中水泳を行っていると、体がポカポカとしてきます。
これこそ、ミトコンドリアが活性化している証拠です。
マウス(実験用のネズミ)を使った実験から類推すると、12度の水に10分つかっていると、ミトコンドリアがふえることがわかっています。
とはいえ、寒中水泳や寒稽古は誰でもが気軽にはできません。
代わりに、手軽にできる方法を紹介しておきましょう。
それは、サウナに入ったあと、水風呂に入るという方法です。
最近は銭湯が少なくなってきていますが、サウナ付きの銭湯なら、必ずといってよいほど、水ぶろがついているはずです。
サウナに入ったら、ぜひ水ぶろに入ってみましょう。
サウナに入ったあと、水ぶろに入ったときと、入らなかったときを比べてみてください。
水ぶろに入ったときのほうが、あとで、体がポカポカしてきたはずです。
これも、ミトコンドリアが活性化していることを示しています。
水ぶろによって体が冷やされると、ミトコンドリアをふやす量産体制に入るのです。
水ぶろに入るのが難しい方は、家庭で入浴後、足先に水シャワーをかけるだけでも、効果が期待できます。
ただし、寒中水泳や水ぶろは、高血圧や心臓に異常がある方は避ける、などの注意が必要です。
■週末のプチ断食
食生活の面では、どんなことが勧められるでしょうか。
ミトコンドリアをふやすためには、空腹感が最も大切であることがわかっています。
そこで、お勧めしたいのは、週に1、2度のプチ断食です。
これは、それほど難しくありません。
例えば、平日は、ふだん通りの食事をします。
それで、週末の1、2日だけ、3割程度、摂取カロリーを減らせばよいのです。
例えば、朝は野菜ジュース、昼はざるソバなどの軽食、夜も、軽めの夕食にします。
実際にプチ断食を経験した方に聞くと、いずれも体調がよくなったといいます。
ただ、断食が終わったあと、いきなり普通の食事に戻すのはよくありません。
徐々に、食事量をふやしていくといいでしょう。
それに、食事の際には、早食いは禁物です。
早く食べることで、老化の原因となる活性酸素を作り出してしまうからです。
ですから、活性酸素を余分に生み出さないためにも、一食に30分以上かけるつもりで、できるだけゆっくり食べるのがいいのです。
■背筋を伸ばす、片足立ちをする
ほかに、日常生活で試みてほしいのは、背すじをよく伸ばすことです。
座っている時も、立っているときも、背すじをピンと伸ばすようにしましょう。
というのも、ミトコンドリアは、筋肉の中に多く含まれているのですが、姿勢を保つための筋肉、ことに背筋と太ももの筋肉に、ミトコンドリアがたくさん含まれているからです。
そこで、日ごろから背すじをのばすように注意してください。
パソコンの前に座っているときは、ついつい体をパソコンのほうへ前傾させて、猫背になりがちですが、これは、ミトコンドリアがの問題を抜きにしても、勧められる姿勢ではありません。
できるだけ、いすの背もたれと背中を平行に保つようにしましょう。
また、片足立ちも有効です。
片方の足を1分ずつ、片足立ちをすることで、普段より倍の負荷(体重)を、体に与えることができます。
同時にバランス感覚も鍛えられます。
曲げているほうの足を持って、行うといいでしょう。
足腰が弱っている人は、転倒に注意して、短い時間から行いましょう。
立っている時も、「頭から糸でつられているようなイメージ」で背中の筋肉をピンと伸ばします。
こうして、日常的に美しい姿勢で暮らすことが、ミトコンドリアを持続的にふやすことに役立つと考えてください。
実際、いろいろな条件下でミトコンドリアの量を計測して、わかってきたことがあります。
それは、適切な運動などを続けると、短い期間でミトコンドリアがふえて、端的に効果が現れるということです。
一日2時間の運動を一週間続けると、30%程度、ミトコンドリアの量がふえることが、人の臨床的な実験からもわかっています。
つまり、ミトコンドリアというものは、このような運動を一週間続けるだけも大きな変化が現れるのです。
その点を励みとして、ぜひお勧めした方法にチャレンジしてみてください。
私たちはいつか老いと闘わなければならない。そう感じている人も多いことでしょう。
私たちの体には、生まれつき「若くなるための機能」がそなわっています。
「若くなるための機能」とは、ミトコンドリアによるエネルギーを作り出す能力と、そのエネルギーを使って老化によって生じる不具合を治していく力のことです。
私たちは、この能力を十全に引き出すことを目指すべきではないでしょうか。
(以上は太田先生の執筆文(壮快掲載)をご紹介させていただきました。肩書は執筆当時のものです。)
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