プロフィール

2016年3月1日火曜日

鬼の口に飛び込む

◆ 土光敏夫の母の言葉 ◆

出町 譲(作家・ジャーナリスト)


※『致知』2016年3月号
※特集「願いに生きる」

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登美の生きる姿勢は、
土光(敏夫)の生き方と
多くの面で重なるところがある。

例えば、非行を行った
女子生徒三人に対して
退学処分が下されようと
していた時のことだ。

当時校長だった登美が

「退学処分は許しません。
 その娘たちは私が預かります」

と言い切って、
教室に寝具を運び込んで、
その生徒たちと学校の中で
寝食をともにしたことがあった。

当初、非行を働いた生徒たちは
口を固く閉ざしたままだったという。

登美も自分から話し掛けることはなく、
校長室でただ読経していた。

数日後、子供たちのほうから

「先生、いったい私たちは
 何をしたらよいでしょうか」

と尋ねてきたその瞬間を、
登美は逃さなかった。

その後急速に登美に
打ち解けた生徒たちは、
素直になり掃除に勉強、
そして読経まで進んで
やるようになったという。


土光もまた、いかに周囲から
不良社員だというレッテルを
貼られた社員に対しても、
そんな社員こそ自分の部下にしたい
ということを述べている。

作物と同じように早く芽が出る
人間もいれば遅く出る人間もいる。

どんな人間であろうとも、
人を切らない登美の姿勢は
土光にも受け継がれていた。

どれだけ年を重ねようとも
次世代のためにという思いで、
骨身を惜しまずに学校建設に
打ち込んだ登美の姿勢もまた、
80歳を超えて日本の国家財政の
立て直しに尽くした土光の姿と重なる。

「人間というものは
 生涯にせめて一度、
 『鬼の口』に飛び込む
 思いをしなければならない。

 そういう機会を持たずに
 人生を終えるのは、
 恥ずかしことだ」

とは登美の言葉だが、
まさに学校建設は登美に
とっての「鬼の口」だった。

土光の場合、何度も
「鬼の口」に飛び込んでいるが、
これとて母の教えに
忠実であらんがためにしてきた
ことだったのではなかろうか。



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