人の心に灯をともす より
【明治維新を成し遂げた日本人のDNA】
渡部昇一氏の心に響く言葉より…
世の中の変化なんて気にするなと言われても、変化に乗れない人を落伍者とするかのような論調が跋扈(ばっこ)する中、そう簡単にはいかないのかもしれない。
ならば、自分たちの祖先たちは時代の波をどう乗り越えてきたか振り返ってみてはどうだろうか。
戦後の歴史教育は日本人の功績に重きを置かないようにできているが、過去の実績を見れば、日本人の変化に対する優れた対処能力は一目瞭然である。
その最たる例は、やはり明治維新だろう。
当時、西洋の近代文明を自家薬籠中(じかやくろうちゅう)の物にせんとした有色人種国は、日本だけである。
島が動くかのごとき巨大な黒船に彼らは仰天したが、すぐに恐怖心より好奇心が優(まさ)ってしまった。
現に、黒船の乗務員の一人は、船にやってきた日本人たちについて「これほど何にでも触れたがる人種は初めて見た」と、なかば呆(あき)れ気味に書き残している。
さぞかし驚くだろうといろいろな機械を見せるのだが、見たこともないものを次々と目にした日本人は片っ端から触りまくり、中には懐紙(かいし)を出してスケッチを始める者までいたそうだ。
もちろん、最後まで旧時代の「文武」と「農」にこだわった西郷隆盛のように、急激な変化に馴染(なじ)めなかった人もたくさんいた。
しかし、総じて見れば、日本人は変化を受け入れるのが非常にうまい。
中国やインドといった過去の優れた文明国までが白人諸国に屈したことを考えれば、驚異的と言っていいだろう。
その後、日本は日清戦争、日露戦争と二度も大きな戦争に勝ち、民主主義も独自に発展させた。
また、太平洋戦争では完膚(かんぷ)無きまでに潰されたが、戦後すぐさまアメリカに飛んだ日本の産業人が先頭となって奇跡的な経済復興を遂げた。
この奇跡の復興は、のちのち120ヵ国にも上る世界中の発展途上国の手本となった。
というのも、いちはやく日本型システムを導入した台湾や韓国が揃って成功したからである。
日本の成功だけならば、日本は別格と片づけられていたかもしれない。
しかし、旧日本領であったほかの国まで日本にならって成功したとなれば、「ならば我らも」とばかりに多くの国が続くのは、自然な流れと言えよう。
日本は戦争に負けたが、その後半世紀あまりをかけて世界のトップに躍り出たのだ。
そして、すべては、日本人が時代の変化に臆せず、自然科学でも産業でも、あるいは政治制度でも、優れたものは積極的に取り入れようという画期的なことをしてのけた結果である。
今は変化の時代だ。
乗り遅れるなとマスコミなどは騒ぎ立てるが、それほど心配することではない。
急激な変化と言っても、明治維新や敗戦に比べれば、たいしたことはないのだ。
『人生の手引き書』扶桑社新書
渡部昇一氏は、こう語る(同書より)。
『私が学生のころ、ふとしたきっかけで「音楽界は今、大きな曲り角にさしかかっている」と言うラジオ放送を耳にしたことがある。
そのときはなんとはなしに聞き流したのだが、それから30年あまり後、今度もラジオで「音楽界は大きな曲り角にさしかかっている」と言うのを聞いた。
そうすると、2、30年もの間、音楽界は常に曲り角にあったということである。
屁理屈だと思うかもしれないが、これは、ある意味で、時代というものの核心をついていると思う。
直線の時期など、皆無に等しいのではないか。
時代はいつも曲り続けているのだから、いたずらに変化を恐れても仕方のないことだ。
どっしり構えて適応する力を養い続けていればいいのである』
新聞や各社の年頭のあいさつを読むと、20年前も、10年前も、そして今年も同じように、昨年一年間は「激動の年」「大きな事件があった」「経済環境はますます厳しい」「不透明な時代」「大きな変化」と書いてある。
まさに、「時代は大きな曲り角さしかかっている」と。
いつの時代も大きな変化がある。
そして、今もそれは続いている。
ITもAIもロボットも、過去何百年に一度の大変化と言われている。
「時代はいつも曲り角にさしかかっている」
明治維新を成し遂げた日本人のDNAを思い起こし…
好奇心を持ち、面白がるくらいの気持ちで、これを乗り切りたい。
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