山崎将志氏の心に響く言葉より…
《あなたは1億円の予算で新しいサービスの開発をしています。すでに8000万円を投資して、完成まであと残り20%、というところまで来ています。しかし、競争相手の会社が、あなたのサービスよりも明らかによいものを出してきました。客観的に分析したところ、どう見ても勝ち目がありません。さて、あなたは残りの20%を投資して、開発を続けますか。》
合理的な答えは「ノー」です。
ビジネスでの意思決定は、「いままでかかったお金」ではなく、「これから得られる利益」に基づいて行う必要があります。
この例のように、回収できる見込みがないのであれば、それがわかった時点でプロジェクトを中止するのが合理的な判断です。
2009年に起こったかんぽの宿の騒動を覚えているでしょうか。
08年末に、長年赤字を垂れ流し続け、天下り先としても問題視されていたかんぽの宿を、日本郵政がオリックス不動産へ売却することを発表したところ、年明け早々に当時の総務大臣だった鳩山邦夫氏(故人)が「費やしたお金に対して売却価格が安すぎる」と待ったをかけた件です。
商用不動産の価格は収益還元法によって決められるのが、世界のスタンダードです。
鳩山氏が収益還元法を知らなかったのか、あるいは様々なしがらみを重要視し、知らんぷりを決め込んで政治家的な判断をしたのか、いまとなってはわかりませんが、いずれにしても大きく国益を損ねる結果をもたらした発言でした。
企業で意思決定する立場にいる人のなかには、頭ではわかっているけれども、しがらみが断ち切れず、諸先輩方の顔が浮かんで決断できないという人が多くいます。
あるいは、批判する理由のひとつには、「勝ち目がないという結論は、本当に客観的な分析なのか?やってみなきゃわからないだろう」というものもあるでしょう。
たしかに、現実的な問題に突き当たったときには、選ぶことのできる事象の発生確率は、明確にわかっていないことがほとんどです。
そうした点がありながらも、物事の判断に「かかったお金」や「費やした努力」を理由にしてはならない、ということです。
我々はとかく、すでに使ってしまったお金にこだわりがちです。
これを「サンクコストの過大視」と呼びます。
「サンクコスト」の「サンク」とは、「沈む」という意味を表します。
沈んでしまったコストという意味で、「埋没費用」とも呼ばれます。
サンクコストについてわかりやすく説明した例として、「コンコルドの過ち」というものがあります。
イギリスとフランスの政府が共同で開発した、超音速の旅客機「コンコルド」は、すでに開発の途中段階で赤字になることが判明していました。
にもかかわらず、それまでの投資額が莫大だったという理由で、開発をストップできませんでした。
最終的に、イギリスとフランスの国内航空会社向けに16機製造されただけで、結局わずか7年で生産が終了しました。
とにかく重要な点は、「これからどうなるか」という将来の見通しに基づいて物事を判断することです。
具体名はここでは挙げませんが、日本の伝統的企業のいくつかが似たような状況で損失を出しています。
これはビジネスだけではなく、我々の人生においても時々直面する問題です。
新しいビジネスをつくる仕事をしていると、自分のプランに酔ってしまうことがどうしても起こります。
またスポ根漫画などでよくあるように「あきらめずに頑張るといつか目的は達成できる」と信じすぎてしまうこともあります。
ビジネスモデルがどれだけ優れていても、どうしてもタイミングが合わないこと(早すぎるまたは遅すぎる)や、運に恵まれないこともあります。
永遠に待てるのなら待てばいつか目標は実現するでしょうが、人も組織も年を取りますし、資金にも限りがあります。
ですから、テスト段階で、何を検証すべきかを明確に定めるとともに、あらかじめ撤退基準を設定することが重要です。
昔から「見切り千両」といわれますが、見込みがない状況では勇気をもって撤退の決断をしたいものです。
『「儲かる仕組み」の思考法』日本実業出版社
「見切り千両」とは、相場の格言のひとつだ。
含み損のある株はなかなか手放すことができない。
だが、反転を期待して持ち続けるのではなく、損切して手放してしまえ、ということ。
これは、人の行動にも言えることで、今まで費やしてきた時間やお金が大きければ大きいほど、現状を維持しようとする意識が働く。
つまりサンクコストを考えてしまうのだ。
名経営者とは、将来の利益を考えて、大きく損切する決断ができる人のことをいう。
問題を先送りするのではなく、今それを明らかにして、損を確定して、損切する。
問題が出てきたとき…
肚を決め、見切り千両を実行できる人でありたい。
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