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2019年1月23日水曜日

これからの時代の教育法

【北欧の起業家精神教育】
東海大学名誉教授、川崎一彦氏の心に響く言葉より…

いま先進国の文明は、知業(知識産業、知恵産業)の時代に入っています。

知業とは、ソフトウェア、情報、デザイン、ブランド、特許、サービスなどの知的財産が主に付加価値を生み出す産業構造です。

しかし、教育を含む日本の社会構造は、「知業化」への対応では、スウェーデンを含む欧米先進国に大きく遅れています。

「失われた20年」や今日の日本社会に山積する様々な課題は、その結果の一面とも解釈できます。


知業社会においては、工業社会とは異なる新たな教育の考え方とシステムが必要です。

戦後の日本の教育制度は、大学受験をクリアすることを目標にして、個性や長所を伸ばすことよりも欠点のない子どもを育てるための詰め込み教育でした。

他の人が考え付かない創造性よりも、他の人が考えた知識の丸暗記が強調されました。

学校では正解が必ずあるとの前提で、いかに速く、正解に辿り着くかの競争をしてきました。


しかし今日の社会では、正解が必ずあるとは限りません。

正解があるにしても、一つとは限らず、そもそも、問題課題を自分で見つけてくるスキルが必要とされます。

そうしたスキルを身につけるためには、「どれだけ」情報を吸収するかよりも、「何を選んで」吸収するかという判断力が必要です。

速読よりも、どの本を読むのか、が重要とされます。


スウェーデンは福祉先進国として有名ですが、同時に経済と持続可能性の面でも世界のお手本となるパフォーマンスを示しています。

福祉と経済の両立は可能であり、知業社会では、むしろ福祉と経済が相互補完関係にある構図が見えてくるのです。

経済、福祉、持続可能性を並立させる鍵は、「知業時代に対応する教育システム」にあると言えます。


スウェーデンを含む北欧諸国では、「誰でも、いつでも、必要なこと」を学べることが国民に保障されています。

そして、学び続けることは、それ自体が楽しく、喜びであり、自己実現の手法である、と考えられています。

北欧諸国は、世界幸福度報告書で上位の常連国です。

2017年の結果は、一位ノルウェー、二位デンマーク、三位アイスランド、四位フィンランド、スウェーデンは10位。

個々の国民は幸せであり、同時に経済の国際競争力も強化できる、といいう構図は可能であることを、北欧諸国は実証しています。

こうした考えから私は北欧の起業家精神教育に注目し、様々な実践を重ねてきました。


北欧の起業家精神は教育は、狭義の起業家教育ではありません。

知業時代に対応する、広範囲な教育の意識改革なのです。

基本的な考え方は「教える教育から学ぶ教育へ」「内容よりも方法を重視」「全ての科目にわたって"起業家精神教育"的考え方を導入する」などのコンセプトからなります。


近年学力の高さで注目されてきたフィンランドでは、1980年代から起業家精神は内的と外的に分けられるようになりました。

外的起業家精神は、独自のビジネスをスタートさせて経営することであり、一般的に起業家精神と言われているものです。

一方、内的起業家精神は、創造性、自己効力感(自己に対する信頼感や有能感のこと)、柔軟性、活動、勇気、イニシアティブとリスク管理、方向性、協調性とネットワーク能力、ものごとを達成するモチベーション、常に学び続ける態度、空想性、豊かな発想、我慢強さなどを意味します。

内的起業家精神は、外的起業家精神の前提条件とされています。


フィンランド教育省は、起業家精神は「アイデアを行動に翻訳する個人の能力」と定義しています。

これは創造性を発揮してユニークなアイデアを生み出し、さらに単なるアイデアで終わらせずに行動に移す、という二面の能力を要求しているのです。

就学前から起業家精神を導入する必要性を、「21世紀の産業社会では職業生活でも常に変化を受け入れざるを得ない。その対応の準備は不可欠である。今後の新たな雇用機会は大企業や公共部門から中小企業にシフトする」と説いています。

内的起業家精神は、起業するしないにかかわらず、大企業に勤める人にも、公務員にも必要な資質と位置付けられてきました。

21世紀という知業時代の基本的教育哲学と言っていいでしょう。


『みんなの教育スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』ミツイパブリッシング





昨今、人生100年時代への対応が必要と言われるが、その中でよく使われる言葉が、「リカレント教育」だ。

「リカレント」とは、「繰り返し流れを変える」という意味で、社会人の「学び直し」のことを言う。

しかし、何を学ぶかが大事だ。

今までの教育のように、ただ知識を詰め込み、知ったことだけで自己満足するようなら受験勉強の焼き直しであり、ただの物知りで終わってしまうし、失われた30年の二の舞となってしまう。


東京都初の民間人校長として有名な藤原和博氏は、それをこう語る。

「みんなと一緒の時代には正解はひとつしかなく、その正解を当てる情報処理能力が求められた。

しかし、いまは違う。

知識や技術、経験をぜんぶ組み合わせて、他者が納得できる解を見つけ出す情報編集能力が大事」


社会が成長している時は、覚えたことや習ったことを正確に再現するレコーダー的能力があれば、ある程度成功できた。

過去の経験則や、同業者や競争相手の成功事例を踏襲すれば成功したからだ。

しかし、現代のような変化のスピードの速い成熟社会では、価値観は多様化し、「解」はひとつではない。

成熟期とは、市場が飽和状態のときであり、停滞期でもある。

多様な価値感の中で成功するには、新しいものを考え出す創造力が必要となる。

創造力とは、様々な知識や情報を組み合わせて新しいものを作り出すという、編集能力のことだ。


現代は、昭和というレガシーを引きずった平成30年間の経済停滞期とも言われる。

平成元年当時は、世界時価総額ランキング50社のうち日本企業は32社を占めていた。

現在は、なんと1社(トヨタ自動車)しか入っていない。

今、上位を占めるのは、GAFA(ガーファ)と呼ばれる、グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェースブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社が、1位から5位(4位にマイクロソフト)を占めている。

平成元年当時、このGAFAは存在しなかった。

そして、GAFAすべての会社が個性豊かな起業家によって創業されている。


失われた30年は、日本の幼少期からの教育システムや起業家精神教育の欠如が大きな要因とも言える。

それは、当事者意識を高めるということでもある。

リカレント教育にも、その視点からのアプローチが必要だ。


起業家精神が必要なのは、なにも起業家だけではない。

今や、幼児から大人にいたるまで、すべての人にとって必要となる大事な資質だ。


起業家精神という言葉をもう一度見直してみたい。


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